日本教育工学会のご報告と、最近思うこと

先日お知らせしたとおり、9月17日~19日までの間で、日本教育工学会の全国大会が首都大学東京で開催されました。

 

 当ブログでの告知も微力ながら貢献したのか、1日目に行われましたワークショップセッション「ゲーム要素を活かした学習ソフト開発の事例研究」や私も発表いたしました課題研究セッション「ゲーム・シミュレーションを利用した教育・学習支援」では、普段学会にはいらっしゃらないような皆様にも多数いらっしゃっていただいたようで、とても良かったと思います。

 

 さて、私の今回の発表に関して簡単にご報告しておきます。

私の今回の発表は、「社会的ジレンマを体験するためのカードゲーム教材が協力行動意図に与える影響の検討」という題目で「教育を目的としたゲームを行った際に長期間に渡って獲得される心理的要因は何なのか、そして、それはゲーム後にどのように変化していくのか」ということに注目した発表でした。(もし、そう聞こえなかったとしたら私のプレゼン能力の至らなさです…。)

 

 この研究では2010年の10月頃に環境問題に関するゲームを実施し(本ゲームに関しては、コチラの記事が詳しいです。)、2011年の4月頃に追加のインタビューを行いました。わずか4名に対するインタビューであるということは前提になりますが、結果からいえば、最も印象に残ったゲームの内容は、ゲーム中に「葛藤」を覚えた箇所に関連しているということです。ある参加者の方は、インタビューで「あの時、相手のグループが主張を押し通してきたのが酷かった」であるとか、「自分の利益と環境との兼ね合いを考えるのが難しかった」という発話をしていました。このようにゲームを行うことで、葛藤が起こった箇所に関しては長期間鮮明に記憶に残すことが可能であるということが言えると思います。

 また、ゲーム中に獲得された意識がゲーム後にどのように変化していくのかということに関しては、ゲーム中に獲得された意識と「現実」が反する状況になっていたとき、人は獲得された意識を失っていくということがわかりました。これは、ゲームでの状況は現実とはリンクしていない使えないものであると参加者は判断し、獲得した意識が低下したということになると思います。

 

 このあたりに関しては、同じ課題研究でご発表された藤本徹先生が最近翻訳された、「幸せな未来は『ゲーム』が作る」(英文タイトルは「Reality is Broken」)を読んでいて思うところがありました。本では、現実がゲームと比較して「壊れている」部分を指摘し、現実をゲーミフィケーションすることで、どう修復するのかという観点が書かれています。

 私の開発したゲームの中では、参加者は2つの国家として、お互いが「環境の維持のために協力する方策を見つけ出す」という展開が多く見られます。しかし、現実の国家はそのようには動きません。明らかに協力すれば上手くいくであろう事柄も、複雑に絡み合う諸要因やエゴの結果、協力に至らないということも散見されます。このとき、ゲームは理想的な環境だからというのか、現実の方が「壊れている」のだから現実を修復すべきだと考えるのかには大きな差があります。

 

 全国大会の発表では、私は「自分で実現可能なことに問題の原因を置く」、つまり「私のレベルにおける責任感」を獲得することが、獲得した意識を維持する方法であるという発表をしました。しかし、「壊れている」現実の方にアプローチをしなくてはいけないという「構造レベルに対しての責任感」を持ち、現実で何かを達成することで意識を維持・向上するという方法もあるのでは無いかと今では思っています。これはとても壮大なプロジェクトで研究という枠組みで扱うのはとても難しいことであると思います。それでも、「幸せな未来は『ゲーム』が作る」を読んでいると「現実にアプローチすること」を前提としたゲームの存在はきわめて重要なものであると感じさせられます。これに関しては今後も何かを考えて発信していきたいと思っています。

 

 最後に1言付け加えるのであれば、近年流行の兆しを見せている、「ゲームやゲーミフィケーション」とは、「ただのお金稼ぎの方法にとどまらず、現実を良くする方法になり得る」ということです。ゲーミフィケーションがただのマーケティング手法として認知される(そしてすぐに消えていく)前に現実へのアプローチとしてのゲーミフィケーションについても考える場を設けられるといいですね。(詳しくはぜひ「幸せな未来は『ゲーム』が作る」をお読みください)

 

それでは、最後に恒例のアナログゲーム紹介に入りたいと思います。今回ご紹介するのは「蒸気の時代」というゲームです。

 このゲームは鉄道会社になり、街と街の間に線路を引き物資を運搬することで利益をあげることを目指すというものです。これまで体験したゲームと異なるなと感じた点は、ゲーム開始時の資金が株式発行による「借金」によるものということです。この株式は毎回配当という利子を払わなければならず、常に資金のショートと隣り合わせの中でゲームが進みます。(追加の借金もできますが、限界値や勝利点の減少もあるので気軽にできるものではありません。)しかも、設備投資(運搬能力の向上)を行うと、資金獲得能力の向上をあきらめなければならないので、どこで「しゃがむ」のかという駆け引きもあります。

 また、引ける線路の数は限られているが、運搬の際に人の線路を使用すると他者の利益が増加するため、どのように線路を引いていくのかという点でも駆け引きがあり、なかなか激しい戦いになるゲームでした。(ちなみに、私が久しぶりに勝利しました)。