「ゲームフルな教育をデザインする」ワークショップ開催報告

 みなさま、クリスマスの連休はいかがお過ごしだったでしょうか。

ワタクシは12月は吉野での「経験のRemix」や、「ゲーミフィケーション」のワークショップ等で全く土日に休みがなかったので、久しぶりのお休みをゆるゆると過ごしました。

 

 さて、本日は12月16日に行われました、「ゲームフルな教育をデザインするワークショップ」の振り返りの記事を書きたいと思います。このワークショップは東京大学で不定期で行われている「CLG(Community for Learning and Games)」というゲームと学習に関心を持つ研究者や学生の会の主催で行われ、東京大学の藤本先生・池尻くん、早稲田大学の私、福山が登壇させて頂きました。

 

 この会の内容を簡単にご説明しますと、まず事例研究として、ニューヨーク州の「Quest to Learn」という学校をゲーム化した事例・ニューヨーク州立図書館の「Find thefuture」という図書館を活用するイベントの事例・大人の学びでのゲームの活用事例として、私が開発した組織市民行動ゲーム「もそドラ(仮称)」の事例を発表しました。

 その後、グループに分かれて、各グループで教育場面における問題を1つ決めて、それにゲーミフィケーションを用いてどうアプローチをするのかというワークを行いました。  

詳しいプログラムはこちらをご覧ください。

 

 本ワークショップは大変な反響を呼びまして、告知開始からわずか24時間で満員御礼となってしまい、ご興味があったのにご参加頂けなかったという方が多くいらっしゃったと思います。この分野にご興味ある多くの方とまたお話する機会を設けたいと思っておりますので、どうぞよろしくお願いします。(特に学生の方とお話してみたいと思いますので、ご興味あれば、 fukuyamayuki[atmark]gmail.comまでご連絡ください。)

 

 さて、具体的な会の内容を私の感想を少しずつ述べていきたいと思います。

 

 藤本先生が発表した「Quest to Learn」は以前からとても興味のある事例の1つでした。

 内容に関しては、藤本先生のブログ(スライドも公開されています)やtogetter等を見て頂きたいと思いますが。今回話を伺って強く感じたことは、この学校は「ゲームを使った」というイロモノの学校ではなく、インストラクショナルデザインの知見に基づいて厳密にカリキュラムがデザインされており、その中に上手くゲームデザインの知見を盛り込んである学校であるということでした。おそらく、普通の学校よりも数段きっちりとした評価制度があると思います。具体的には学習目標=「ミッション」を達成するのに必要な項目が「クエスト」として盛り込まれており、様々なクエストをこなすことで称号が貰えクエスト達成度が可視化されているという具合です。

 

 他に印象的であったのは、全ての学校をゲーム化する必要は無く、旧来の学校に向いている人はそのままで良く、ゲームが向いている人が来れば良いというお話でした。アメリカ(のニューヨーク)では小規模のチャータースクールを作るスモールスクール運動というのがあり、「Quest to Learn」その中の1つとして生まれたということでした。日本にもフューチャースクールというものもありますが、このように学校のコンセプトごとデザインするということがもっと行われても良いように思われます。

 

 池尻さんの発表された「Find the Future」はニューヨーク市立図書館で行われた「自分の未来を本に残す」プロジェクトでした。参加者は図書館に隠された100のエピソードを集め、それに刺激を受けて自分の人生を本に残すことを求められます。ストーリーを発見するとポイントが与えられたり、アーティファクトが活性されたりするそうです。参加者が書いた本は1つにまとめて製本され、図書館に寄贈されました。

 

 池尻さんはこのプロジェクトのゲームフルな点を、

 

1. 図書館が持つ豊富で面白いリソースの利用

2. 夜の図書館というワクワクする舞台の用意

3. オンラインによるナビゲートと実際の空間との連動

4. 時間ごとに章を埋めていくというわかりやすい進行メタファー

5. 自分の未来を考えるという敷居の低さ

6. みんなが書いたものが1冊に製本されるという達成感、目標の共有

 

という6つにまとめられていましたが、先日私が発表したゲーミフィケーション関連理論に照らし合わせても、まさにこれは活動を楽しく・意義あるモノにするためのデザインがふんだんに盛り込まれているなと感じます。ものごとをゲームフルにするというのは「ゲームを作る」ということではなく、「ゲームのように」熱中させるためのデザインを盛り込むということです。この点でこの「Find the Future」はとてもゲームフルな活動であったのではないでしょうか。

 

 最後に私から大人のための学びの事例ということで、先日開発しました組織市民行動ゲーム「もそドラ(仮称)」について発表させて頂きました。ケイティ・サレン、ジェイン・マクゴニガルと超大物デザイナーの事例のあとの発表ということで、なんとなく緊張したのですが、思いの外好評で嬉しい限りです。

 私の発表の詳細も下記のスライドを見て頂ければと思いますが、簡単に述べますと、

まず大人の学びとしてのゲームとして、ビジネスゲームに着目し、その利用用途が「知識の取得」から「経験の獲得」に変化しているということを述べました。

 そして、「経験の獲得」のためにデザインした、組織市民行動ゲーム「もそドラ(仮称)」がどのような経験を目的とし、そのためにどのようなデザインを行ったのか。そして、結果としてどうなったのかという筋でお話をいたしました。

 本研究は東京大学の中原淳先生・カレイドソリューションズの高橋さんとの共同研究で実施されており、昨日行われました人材育成学会で発表をいたしました。こちらのスライドの一部もあわせて公開いたしますので、ご興味がある方はご覧ください。

 

 発表後に行われたワークショップですが、「学校」「生涯学習」「企業」の3つの問題関心で4,5名の小グループに分かれて頂いて行われました。発表が押してしまった関係であまり長い時間議論できなかったのが残念ですが、それぞれのグループごとに問題場面を設定し、それに対するアプローチを考えられており、とても面白い議論がなされていたと思います。

 

 まとめに変えて個人的に印象に残っているエピソードを2つご紹介します。

1つ目は参加者の方のツイートに、「あれだけ短い時間でもゲーミフィケーションで問題を解決する様々なアイデアが生まれたのだから、ゲーミフィケーションが必要なのは必然だろう」というようなツイートを拝見したことです。まさにあれだけの短い時間でゲームフルな問題解決策が複数生まれたことは、「私たちの社会がいかにゲームフルでなかったか」ということと同義に思われました。今後よりこのようなアプローチが重視されることでしょう。

 もう1つは、藤本先生との議論の中で生まれた、「ゲームなんだからもっと気楽に、しかり取り組め」という言葉です。これまで「ゲーム」という言葉では、「ゲームじゃないんだから…」という風にマイナスイメージを伴って使われていました。しかし、最近、「これはゲームなんだから、失敗をおそれずに、もっと気楽に、楽しんでやっても大丈夫」というニュアンスで語っても受け入れられるような土壌が出来た気がします。

私たちは日常生活の中で、様々なモノに縛られて自由に発想したり、取り組んだり出来なくなっています。それを「ゲーム」をスタートすることで「日常とは別のルールが適応される世界」(魔法円)に入ることが可能になり、それによって安心して普段出来ないことに取り組んだり、日常生活をメタに捉えたりすることが出来るのではないでしょうか。

 

またぜひみなさまにお会いして議論が出来ますことを楽しみにしております。

 

それでは良いお年を!